チェルシーへの道

国内外の一流のガーデンデザイナーが一堂に会し腕を競う、ワールドガーデンコンペティションに弊社チーフデザイナー鈴木錬美が出展します!

鈴木錬美
鈴木錬美
専務取締役
1974年津市生まれ。1999年より1年間、イギリスのロンドンへとガーデン修行に出る。
帰国後、イングリッシュガーデンのセンスと日本庭園の洗練さを合わせもったスタイルのガーデンデザイン「れんみの庭」を制作している。2010年ワールドガーデンコンペティション銀賞受賞、2012年ガーデニングワールドカップ銀賞受賞。2013年中堅優秀技能者 知事表彰受賞。趣味はチャーハン動画。

Vol.5 WGCへの挑戦〜準備編part4

庭造りが始まった。ようやくWGCの施工期間がスタートしました。手伝ってくれる社員や、施工チームを引き連れ会場入りです。図面を描きあげている段階でイメージは固まっています。しかしただ図面通りに土を堀り、物を建てたりするだけでは、決して上手くいきません。素材それぞれが主張する声に耳を傾けながら、作業を行います。
今回のテーマは「息子の為の庭」。施工チームにも「親父として息子の為に創ることをイメージして」という意思統一をしました。

庭造り(前編)

まずは穴を掘ってボートを置き、高さをチェックします。ボートが入るとどのあたりまで水面が上がり、どの様に見えてくるか?その様なことを考えながら、1つ1つ工程を進めていきます。

次第に奥のウッドデッキが出来上がってきます。自然木のひねり木で作ったフェンスは遠目に見ても、こだわり十分です。

非常口のちょうつがいには、アンティークなものを使いました。それは、イメージにあったものを求め、1日の作業の後のヘトヘトの身体で何時間も車を走らせ、ようやく見つけたものです。
そのちょうつがいは良い思い出として、今も僕の机の上に飾ってあります。

庭の完成はまだなかばですが、思いをこめて作ったウッドデッキをみると、そこには息子が寝転がって、笑っているかのように僕にはみえました。

伸びた芝生が納入されました。そのまま庭内に敷きこんでみると、想像していたよりもはるかに素晴らしい。その芝生はまるで以前からそこに生まれ生えていた様に周囲の緑に馴染みました。

親父がひと抱えて積める精一杯という大きさにこだわって探し出した石材、古いパレットを解体して集めた板材、製材所の隅に無造作に置かれていた木材、こだわりぬいた材料で少しでもイメージに近づけたい、いやイメージを超える何かを探したい。手探りの作業が続いていきます。
無我夢中で集めた素材達が力を合わせ1つの庭をつくり出していきます。

今持てる力を全て出しきって集めた素材が日に日に搬入されてきます。

庭造り(後編)

芝生が入り庭の骨格が出来上がってきました。池には水が入り、この時点でもう十分な見応えの様に思います。

リンゴの木を引取りに長野は松本まで。
三重県から長野県まで・・そして会場となる浜松まで、今回の庭の主役となるリンゴの木(時期的にも花はまだついていないと言われていたが、どうしてもこれを植えたいと思い選んだ)を社長が自ら運んでくれました。
断っておきますが、社長(親父)はあまりその様なことは普段しません。何というか、その様なタイプではないのです。また、今回の庭造りに関しても、おまえがでやれるだけ全力でやってみろというスタンスでした。その為、今回の庭造りに関しても工事中に愛車に乗って、ひとりで様子を見に来る。その後はそっけなくすっと帰る。いつもの社長(親父)であれば、そんな感じだと思ってました。
リンゴの木の引取りを前日に迎えた日、番頭の中橋より浜名湖にいる私に電話がありました。
“明日の引取りに社長と一緒に行く”
私には意外でした。
翌日はあいにくの雨が降ってきましたが、その日の15;00頃会場にそのリンゴの木は丁寧に運ばれてきました。その運転席には社長(親父)の姿が。
聞けば早朝4:00に三重を出発し、長野でリンゴの木を引き取り、浜松の会場まで計10時間かけて運んでくれたとのことです。
少し疲れた顔で笑ってみせたその顔には、確かに想いがありました。今になって思えば、親父にとってもこの庭は息子(私)の為の庭だったのかもしれないと感じています。
プランティングは最後の締めくくりです。無我夢中で配置し、1つ1つ丁寧に植えこんでいきます。植物の生命力を感じ、生きようと思う気持ちをひとつひとつくみ取りながら、「植える」のではなく、もとのあった場所に「戻す」気持ちで配置して行きます。そのとき僕には木々たちの声が聞こえたように感じました。

庭はほぼ出来上がりました。
庭を造る、私の気持ちには何の迷いもありません。
すべての作業が終わったその日、リンゴの木は満開になっていました。